KANSAI WORLD MASTERS GAMES 2021

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WMGをする人

2020/11/13

vol.04 五輪をあきらめない。その背中を息子に ~木吉りよさん・クレー射撃~

ワールドマスターズゲームズ2021関西クレー射撃競技リハーサル大会(2020年10月16日(金)~18日(日)開催)。空中に放たれた鮮やかなオレンジのクレーが割れると、思わず「おおぉっ」と声が出そうになります。

参加者層は50代以上の男性が多めでしょうか。そんななか、一際存在感を放つ女性がいました。木吉りよさんです。

お話を聞くと、木吉さんの口から出てきたのは「オリンピック」「母親として」という言葉。木吉さんを五輪出場にかき立てるものとは。

 

弾を撃った瞬間、「絶対、これがやりたい」

清水 そもそも、どうしてクレー射撃を始めようと思ったんですか。
木吉 父がもともとクレーをしていて、興味があったんです。国内で好成績をあげてオーストラリアでの大会に出る父について行って、現地で銃を撃った瞬間、「絶対、これがやりたい!」って思って。私自身は学生の時はアーチェリーをしていて、インターハイ止まりでした。今は、「絶対オリンピックに行く」。これが目標です。
清水 インターハイに出るだけでもすごいですけど。
木吉 アーチェリーをしていた頃の気持ちと今の気持ちを比べたら、「あの頃の気持ちなんて、屁みたいなもんやな」っていうくらい(笑)、今は本気です。


清水
 クレーを始めたのがいつぐらいですか。
木吉 クレーへの転向を決めたのが22歳で、免許とか資格を取ってから本格的に始めたのが24歳です。
清水 やってみて、どうでしたか。
木吉 最初は、上位をめざして追っかける立場だったので、すっごく楽しかったんでよ。クレーが割れても割れなくても、めちゃめちゃ楽しくて。試合に出るうちに、2015年、2017年と続けて全日本女子選手権で優勝もしました。そのうち、だんだんと下の世代が出てきて、追いかけられる立場になった時に、「すっごく苦しいな」と思い始めました。

 

泣くほど悔いが残った東京五輪選考会

木吉 実は「競技生活を続けるのも東京五輪まで」って決めてたんです。でも、東京五輪の選考ですごく悔しい負け方をしてしまって・・。
清水 悔しい負け方、ですか。
木吉 選考会の前に、新しい鉄砲に変えたんですけど、鉄砲に慣れて“自分のものにする”のが間に合わなかったんです。
清水 全然、納得のいかない戦いやったんですね。
木吉 ようやく調子が上がってきたところで、選考会の予選が終わってしまって。私、息子の前で、その時初めて泣いたんです。誰の前でも涙は見せへんのですけど。でも、息子が言ってくれたんです「またやったらいいやん」って。で「4年後のパリ五輪に出る」「4年でやめる」って決めて、練習しています。
清水 そうだったんですね。練習はどれくらいされてるんですか。
木吉 この3か月は月~金曜日まで毎日練習に行きました。大阪に住んでいるんですが、オリンピック基準の76mを飛ばしている練習場が近くにないので、1週間のうち半分近くは三重県の練習場に行って。
清水 えぇ、三重まで!
木吉 っていっても1時間半くらいで行けますけどね。子どものお迎えがあるので、なるべく短時間で集中してやって、1日だいたい3時間くらい練習しています。まぁ、1日中練習している方もいますけど。子どもを産んでから、一時期練習量が減った時に、引き金を引くのが怖くなったことがあって。自信がなくなって、引き金が引けなくなったんです。なので、やっぱり自信を失わないための練習量はいるんです。
清水 練習っていうと、射撃練習ですか。
木吉 そうですね、射撃練習とあと、動体視力は大事なので、撃つ前に目の体操はします。目を早く動かしたり、そうしないと飛んで来るクレーに対応できないので。今後、老眼が入ってきたら、どうしよかなと思ってます。

 

五輪をあきらめない。その背中を息子に見せる

清水 ところで、今日の大会は、“誰でも参加できる生涯スポーツの大会”で、トップ選手が競う大会と少しちがう感じですが、どうして大阪からわざわざ岡山へ来てまで参加されているんですか。
木吉 私、事務局に「この大会は、クレーを76m飛ばしますか」って聞いたんです、五輪の規定がその距離なので。そしたら、ちゃんと76m飛ばすということだったので、ひとつでも多く試合に出ようと参加をしました。

清水 そういうことだったんですね。今日は、お父さんも息子さんも一緒のようで。
木吉 そうなんです。父にも、金銭的にも精神的にもサポートしてもらっています。だから、「(目標の五輪出場して)親孝行しますから、待っといてくださいね」って。でも、一番、ガマンしているのは、やっぱり息子やと思います。平日、練習に行く分、土日は子育てに専念しているとはいっても、家にいれないことも多いですし。

清水 息子さんは、何かおっしゃったりされてますか?
木吉 いや、何も。でも、本音を言えば、「すぐにでも辞めてほしい」と思っているはずなんです。普通のお母さんならやってあげられているようなこともできていないと思う・・でも、もしかすると、他のお母さんには見せられないこともあるかもしれなくて。私は、「最後まで絶対にあきらめない」っていう姿勢を息子には見てほしいと思っています。
清水 すごい。ちょっと待ってください・・(涙をぬぐう)。確かに、母が五輪に向かうってなかなかないことですね。

清水 クレーをやってて、楽しい瞬間はありますか?
木吉 割れたら、おもしろいですよね。爽快!それを知ってるから、みんな辞められないんやと思います。
清水 そうなんですね。でも、まだまだマイナースポーツなところはありますが・・
木吉 女子の選手とか、強い若手も少しずつ増えてきてるのは、いいことなのかなと思います。でも、まだまだ「怖い」っていうイメージがあるのも確かですね。「大丈夫ですよ」「ぜひ、しましょ」って私は言いたいです。
清水 木吉さんの当面の目標は何ですか。
木吉 出る試合、出る試合に勝っていって、勝ち癖をつけていきたいです。確実に1枚1枚を割っていく。それをするために日々練習で大事に1枚1枚撃っていくのみです。

 

取材を終えて

取材後、木吉さんからうれしい知らせが届きました。「今年の全日本女子、優勝しました!」。2017年の優勝から実に3年ぶりに優勝を勝ち取られました。
芸能であれ、スポーツであれ、学術研究であれ、大きな夢に向かう時によく耳にする「家族が一番の応援団」という言葉。何かを“する”ことも応援であれば、家族として何かを“耐える”ことも応援だと、木吉さんの息子さんとのエピソードを聞いて思いました。
東京五輪の次のパリ五輪では、「Kiyoshi, Japan」の名前を見ることができるかー。楽しみにしています。

取材・構成 兵庫県広報専門員 清水奈緒美