KANSAI WORLD MASTERS GAMES 2021

WMGを作る人

2020/01/22

vol.03 「競り」も「但馬牛」も楽しんで帰ってほしい ~香美町役場生涯学習課 田中利彦さん~

 

2019年10月26日、27日、香美町と養父市で「オリエンテーリングたじま2日間大会~ワールドマスターズゲームズリハーサル大会~」が開催。

香美町会場のたじま高原植物園周辺で、スタッフや運営資材を運ぶのに、バンを往復させていたのが香美町役場の田中利彦さんです。来たる2021年の大会準備以上に(?!)ワクワクしてすすめているのが、大会参加者のための観光オプショナルツアーの企画。実は田中さん、香美町の元・観光担当者!「競りを見学して…」「山菜のフルコースを…」と、今考えている秘策を楽しそうにお話しされるのでした。

 

オリエンテーリングを知る!出る!ことからスタート

清水 田中さん、今日の大会運営、お疲れさまでした。
田中 なんとかお天気にも恵まれて、よかったです。100人くらい全国から来てもらって。

清水 いつから今のご担当に?
田中 3年前の10月でしたね、観光商工課から今の生涯学習課のオリンピック&マスターズ担当へ異動になりました。その時点で、香美町でのオリエンテーリング開催というのはほぼ決まってました。

清水 異動を聞いた時、オリエンテーリングというのは知ってましたか?
田中 いや~知らなかったです(笑)。国内の競技人口が1500人と聞いているので、あんまりなじみの少ないスポーツだと思います。こんなに山があるところに住んでても知らないんですよね。オリエンテーリング、北欧発祥なんで。ノルウェー、スウェーデンが発祥で、約200年前に軍のトレーニングとしてできたんです。で、日本に協会ができたのが30年くらい前かな。なので、まだ新しい競技だと思います。

清水 香美町、養父市、神河町でオリエンテーリングが開催だということは決まった。で、何から始めたんですか?
田中 まず、オリエンテーリングを知らないといけないんで、役場内で希望者を募って…というか無理矢理後輩1人を連れて、県内のオリエンテーリング大会に、丹波市の「並木道中央公園」だったかな、に行きました。普段走ってないので、1週間前に走ってみたんです。「5kmくらいは普通に走れるだろうな」と思っていたら、3kmくらいで足が痛くなって、1週間足を引きずっている状態で大会に出ました。で、初心者クラスですが1人が優勝、私が3位だったので、まずまずだったかなと。それから、インストラクターの資格も取りました。

 

英語がしゃべれない2人で選手アンケートを取る

清水 その後は?
田中 2017年、ニュージーランドのオークランドで開催されたワールドマスターズゲームズの大会に行きました。「ただ視察をして、動画や写真を撮ってこんな感じだったっていうだけでは…」と思ったので、選手にアンケートを取ろうと。英語がしゃべれない2人で(笑)。
清水 ほ~すごい。
田中 「ワタシはニホンから来た、ツギはワタシのマチで大会がアル。イイ大会にしたいんだ、だからアンケートにコタエテくれ」、選手、「OK」みたいな調子で、120ほどサンプルを取りました。「いつ来たか」「何日滞在したか」「いつ予約を取ったか」「誰と来たか」みたいな質問を聞いて、それをもとに5年間の実行計画を作って、で、今それに沿って動いて、っていう感じです。観光の部署の経験が役立ってるんかもしれませんね。マーケティング調査をして、それをもとに進めていかないと、行き当たりばったりでは良くないですからね。
清水 選手ファーストですね
田中 はい。そこが肝心かと…。
清水 フットワークが軽いですよね。
田中 あ、「先走ってる」ってよく言われるんで(笑)。3割決まったら走るタイプなんで、よく怒られますね、後輩にも。

 

でも、なにせ宿にはインバウンド受け入れの経験が少ない…

田中 40か国から1500の人が来るってなったら、香美町ってインバウンドの観光ってまだまだ遅れている状況なんですよね。町内には宿が約160軒ある。なら、まずやるのが「宿泊の体制を整える」、そこからですよね。セミナーを開催したり、キャッシュレスの話をしたり。


田中
 指差し会話帳と言われるものを作って「英語ができなくてもこれを指で指したら、ほら、ある程度会話ができますよ、簡単でしょう?」みたいな。あとは、自動音声翻訳機を持っていって、「これがあったら英語、心配ないですよ」って、受け入れていただける宿をお願いしたっていう感じです。で、今65軒かな、受け入れていただけるのは。

清水 宿の方は、受け入れに対してどんな反応でした?
田中 外国人をあまり受け入れたことがないので、様子をうかがってる感じでした。あと、カニ旅行って1泊2日が多いので、連泊の受け入れが少ないんですよね。最初は「田中さん、2日目は何出したらええん?」って話が多かったんですが、だんだん宿の方から、「選手村みたいなのを作って、各宿で、うちは肉』『うちは野菜』『うちはご飯って担当して、バイキング形式にしようか」とか「予約すれば、宿泊する宿でなくても、どの宿でも晩ご飯が食べられるようにしようか」とかアイデアをいただいて嬉しい限りです。宿のみなさんには、「Wi-Fi整備」、「キャッシュレス決済」、「海外のネットエージェントへの登録」、この3つをお願いしてます。選手のアンケートで「宿の予約はネットで取る」のが1位だったので。

 

うれしいことに、地元の高校生もがんばってくれてます

清水 宿の整備をされました。次に、何を?
田中 「ワールドマスターズゲームズや競技を普及しないと」と思いました。「大会がありました。選手が1500人来ました、帰りました。町の人は何も知りませんでした」っていうのが一番あかんと思うので、オリエンテーリングを知ってもらおうと、小中高校で体験会を実施しました。

 

中学生にオリエンテーリングを説明する田中さん

 

小学生にオリエンテーリングをレクチャーする田中さん


田中
 去年は15回、450人くらいが参加してくれました。「体験会をします」っていっても大人の方は集まっていただきにくいので、運動会とかスポーツイベントの端っこで、体験会をさせてもらうっていう形です。今年、村岡高校がすごくがんばってくれて、オリエンテーリングの授業を30時間くらいしてくれてるんですよ。オリエンテーリングの歴史とかも学習して、自分たちが指導できるよう、シナリオを作って、実際にこの間、兎塚小学校の児童に高校生がレクチャーして体験会を実施してくれました。普及啓発を高校生がするみたいな、ちょっと楽しい形になってますね。高校からのオファーだったんですが、ありがたいことです。

 

プレーで使用する地図を製作する村岡高校の生徒さんたち

 

清水 今年これからは何を準備していくんですか?
田中 これからするのは人集めですね。会場の中にスタッフが200人要ります。英語が話せる人を確保するのに、マスターズの組織委員会と5つくらいの大学とが英語ボランティアの協定を結んでいるんですが、なんせ全体で35競技あります。となると、オリエンテーリングの割り当ては数人くらいでしょう。そこで、鳥取環境大学と鳥取大学に「英語ボランティアの募集をしてもいいですか」と話を持って行くと、「いいですよ」となったので、この冬から募集のポスターを貼らせてもらう予定です。

 

選手には、香美町を楽しんで帰ってほしい。そのための秘策が…

清水 大変やな~と思う時はありますか?
田中 特に「大変だ」と思うことはないですね。
清水 ・・すごいですね。
田中 ただ、3市町で実施するとなると、予算とかPRの仕方とか、バランスを取って決めないといけないんので、そこがむずかしいなという感じはしてますね。

清水 じゃぁ、やってて楽しい瞬間はありますか?
田中 大会にあたって、各市町から3つまでオプションの観光プランを出せるんです。今回のマスターズには世界中から5万人が来る予定になってますから、その方たちへ向けて観光プランを出しましょうと。香美町は遠いので、1泊2日のプランを作った時が楽しかったですね。で、それをレジャー総合情報サイトの「アソビュー!」さんに見てもらいました。そこそこいい評価をもらいました。で、その観光プランを一緒にやってくれる宿の方と打ち合わせをしてる時が、むっちゃ楽しいんですよ。

清水 どんなプランが?
田中 1つ目はジオタクシーでジオパークをクルーズして、宿で寿司作り体験をして、次の日香住漁港の競り市見学する「漁師のまち満喫プラン」。2つ目、大会の時期、山菜が採れるので、山菜を採って帰って、山菜のフルコース料理を食べて、次の日はお稲荷さんを作ってハイキングに行くプラン。3つ目は、棚田で田植えをして、小代の温泉に入って、但馬牛のすき焼きを食べて、スナックではしご酒、次の日は餅つきやそうめん流しをする「農家体験プラン」。この3つです。

山陰海岸ジオパークを船から見るジオタクシー

香美町小代区「うへ山の棚田」

 

清水 なんか、観光の経験が存分に生かされてますね。
田中 そうなんですかね。まぁ、お金儲けの話なんで楽しく話せますね(笑)。楽しい前向きな話が好きなんでね。大会の目標に「レガシーを残す」ってあるんですけど、これがなかなか難しい。競技自体を普及するのも大事なんですが、交流人口を増やすということにも力を入れていってます。大型のイベントをする時は、まちの施策に近づけることが一番費用対効果が上がると聞いてますし。

清水 大会、どんなことが楽しみですか。
田中 選手がニコニコして大会を楽しんで「楽しかったよ~」って帰ってもらえるのが楽しみですね。で、またいつか香美町に帰って来てもらったら。「カニやノドグロ、神戸牛の素牛=但馬牛もある」ってだけで、ひきがありますしね。兎和野高原やハチ北もロケーションがいいので。あと、マスターズは“見る”スポーツではなく“する”スポーツなので、香美町の人が何かの競技に出てくれたらいいなと思います。大会の翌年からは、町民みんなで1日15分以上何かのスポーツをする「チャレンジデイ」を開催できないかなと考えていて、“生涯スポーツから健康づくり”っていうのが広がればいいなと思います。

 



《取材を終えて》

 

実は、観光の担当でいらっしゃる時から私は田中さんを知っています。田中さんは、地元の人と協力して香美町の素材を掘り起こし、感情まる出しのプレスリリースでメディアや関係機関に売り込んでいった仕掛け人。その田中さんが大会のPRのために製作されたポスターを見た時に、「地元の人の顔を出して、香住弁使って…田中さんらしいわ!」と思ってしまいました。

 

地元のええところを知り尽くしているからこそ、大会参加者に香美町を味わって体験してもらうのが楽しみなんだと思います。その心持ちが、まさにおもてなしの心です、田中さん。

 

取材・構成 兵庫県広報専門員 清水奈緒美